コピーライターの食卓

主夫歴30年、ほぼ15分の美食メニューがここにある

73歳「元神様」の教えは自分愛

 

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日曜日の深夜、所用でクルマを運転する機会がよくあります。カーラジオで偶然耳にした声は、かつての神様でした。お互いに年を重ねて、新たに受けた教えとは・・・。

 

東京都北区赤羽周辺は、夜の帳(とばり)が下りても昭和の面影を色濃く残す街並みに囲まれていることがはっきりわかります。

 

信号待ちの間、舞台セットのような空間を味わいながらラジオのスイッチを切り替えてみたら、独特の話し方から時空を超えた記憶がよみがえってきました。

 

声の主は、間もなく73歳になるシンガーソングライター、吉田拓郎氏。1980年ごろから10年程度、神と崇めていた人物です。

 

僕は子ども時代にビートルズを聞き始めましたが、中学生になる前に「群れをなすな」「徒党を組むな」との氏の主張に心を突き動かされ、どのように生きるべきかを考えるようになります。

 

その歌詞の通りに生きていこうとしたわけではなく、心の奥底に眠っていた生来の気質が揺り起こされたのです。いずれは他の誰かに影響を受けたかもしれませんが、僕は10代前半に氏の言葉によって覚醒しました。

 

当時のファン年齢の中心が20歳代半ばだったとすれば、僕は彼らの半分以下の年齢で、相当に背伸びをしていたのかもしれません。しかし、精神的な違和感などまったくありませんでした。

 

人は1人で生きられないとはいうものの、1人で生まれ1人で死んでいくのが人間だと。何事からも束縛されず自由に生きるべきという生き方に共感。高校時代には神に近づこうと、当時の氏のようにカーリーヘアにしていたこともあります。

 

クルマは環七通りに交差する鉄道高架橋を潜り抜けるところ。車内にほとんど乗客のいない西武線が通過していきました。僕は大井町方面に向け、さらに先を急ぎます。

 

1990年代になると、氏の変わりように疑問を持ち決別。しかし、中高年になった僕は、今も氏に揺り動かされた自己を実現しようと、日々奮闘しています。

 

73歳になる元神様は、そんなことなどお構いなしにしゃべり続けます。番組内で自身の作品の中から嫌いな曲をリスナーから募ります。にもかかわらず、あの歌はどうも好きになれないとの意見に対し半分ムキになって反論し、曲の趣旨を説明し、その場で生演奏し、最後はその曲をオンエアするという悪趣味。

 

それを聴きながら思いました。「この人は、なんて自分を好きなんだろう」と。そして、うらやましくなりました。僕は以前、他人からよく勢いがあると言われて生きてきましたが、当時は自分を300%肯定していました。

 

そのことを急に思い出したんですね。ここ数年はタフな経験をして自分自身を全否定するようになり、それで勢いを失ったような気がしていたのです。

 

もっと高く!もっと先へ!羽ばたきたいのにそうできない。そんな自分にいら立ち、非難し、糾弾するようになってしまいました。四半世紀ぶりぐらいで聴いた元神様の声は70歳代になっても勢いは衰えていませんでした。

 

その秘訣は、自分を大切にすること。僕も改めて教えを受けました。自分を許し、肯定し、好きになってやろうと。そして、以前のような勢いを取り戻し、疾走しようと。

 

クルマはやがて、環七通りから世田谷通りに入りました。日曜日の深夜、寝静まった幹線道路でいつもよりアクセルを緩めに踏んでみました。自宅はもうすぐです。

(おわり)