PTコピーライターの食卓

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池袋暴走事故で亡父を想起

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4月19日午後、東京都豊島区東池袋の路上で乗用車の暴走で、10人の死傷者を出したもようです。運転していたのは87歳の男性と聞き、8年前に80歳で他界した父親との運転に関する葛藤を思い出しました。

「テロなのかよ」――その日の昼すぎにツイッターで情報収集していたら、そんなつぶやきがいくつも飛び込んできました。何が起こっているのか調べてみると、150メートルにわたり乗用車が猛スピードで走行し、歩行者を次々にはねるという痛ましい事故。

跡形もなく壊れた自転車や横転したゴミ収集車の画像から、事故の凄まじさが伝わってきます。その事故で母子が死亡したほか、8人が重軽傷を負いました。

運転していたのは、近所に住む87歳の元官僚で、「アクセルが戻らなくなった」と話しているようです。乗用車自体に問題があったとすれば、メーカーや修理請負業者などに責任は向かうかもしれません。

一方で、そのドライバーが操作を誤った可能性も指摘されています。2年前の免許更新で認知機能の検査を受け運転に支障はないと判断されたようですが、駐車場の車庫入れに苦労していたとの近所の住人による証言もあります。

高齢ドライバーの交通事故と聞くと、認知症ぎみだった父親の運転をめぐる苦悩を思い出します。70歳代終盤から口調ははっきりしていたものの、内容がファンタジックになっていくことに、最初は面白がって聞いていました。

昔からジョークなど言うようなキャラクターではなかったのですが、引退して充実した年金生活を送るようになり、趣味や交友関係の広がりがそうさせていると思っていたのです。

しかし、次第に認知症ではないかと疑い始め診察を受けてみたら、やはりそうでした。その後は暗たんたる気持ちになります。当時はクルマを運転していたのですが、同乗した母親から何度も危険な目に遭った話も聞き、行動しなければと思いました。

まず、父親が正常な状態の時に運転を控えるよう説得を試みました。しかし、若いころから大好きな運転をやめるなど考えもつかないようでした。次に、診療先の医師に運転は危険だと言ってもらおうとお願いしましたが、協力は得られませんでした。

父親は検察官でした。地方から単身上京し、人一倍努力して出世の階段を駆け上がりました。輝かしい人生を送ってきたからこそ、交通事故で他人に被害を与え、晩節を汚してほしくはありませんでした。もちろん、親の起こした事故の責任など追いきれません。

やむを得ず、母親と共謀して免許証とクルマのキーを隠すことにしました。父親はいつも、イライラしながらそれを探していましたが、免許証の再発行を警察に申請。そこで認知機能はないと判断されると、新しい免許証を持って乗る気満々です。

しかし、キーはどこかに置き忘れたことにして、最後まで渡しませんでした。認知症と診断されてから1年あまり経った2011年9月、父は旅先で事故死。生涯の楽しみを奪ったことに、今も強い罪悪感と自己嫌悪にさいなまれます。

池袋の事故の原因は究明中ですが、高齢ドライバーの操作ミスによる交通事故は後を絶ちません。他界した父は自分を恨んでいたかもしれませんが、運転を強制的にやめさせたことで1人の死傷者も出さず、父の名誉も守りました。

自分は間違えたことをしていなかった、と信じたい。

(おわり)